Master01 「愉快でたまらない」
深夜。
ディスプレイの明かりだけが灯った闇の中に、移り変わるデータや映像を見ながらキーボードを叩く音が響く。
突然その画面が通信状態に切り替わり、ディスプレイには黒い長い髪の女性の顔が映る。
『こんばんは。夜分遅くに申し訳ありません』
その言葉の通り、キーボードを叩いていた影はその手を止め、不快そうに吐き捨てる。
「全くだ。今丁度データの整理をして、貴女に報告するところだった。その邪魔をするということは、データは不要ということか? <プランナー>」
名を呼ばれた女性―――<プランナー>こと都築京香はくすりと微笑む。
『いいえ。貴方から提供される情報はいつでも大変に興味深い』
「ならば邪魔をしないでもらおうか。私は今非常に」
「『愉快でたまらない」』
声が綺麗に重なる。影と、<プランナー>の声が。
影は露骨にちっと舌打ちをし、<プランナー>の微笑みは一層深くなる。
『貴方には期待していますよ。私のプランにも、より良い情報を加えて素晴らしい演出をしてください。…よろしいですね、<遺伝子の繋ぎ手(ジェネリンカー)>』
そう伝えて、通信は途切れる。
<遺伝子の繋ぎ手>は暫く忌々しげにディスプレイを睨みつけていたが、やがて口元に一筋の切れ込みのような笑みを浮かべる。
「あんたに言われるまでもないし、私が手を下すまでもない。繋がりのある遺伝子達は引き寄せられ、共鳴を起こし。…いずれ」
呟きはそこまで。
再び主が作業に移った部屋には、キーボードを叩く音だけが響き渡っていく。
⇒Middle07