>ミドル・フェイズ5 【ロストマン】
真琴は一人、保健室で待機していた。周りには慌しく患者の容態を確認するUGNの職員達がいたが、手伝おうとはし
ない。自分がその手のことに役に立たないのは重々承知しているのだ。
「…………あ。お客」
廊下からこの部屋にかけ<ワーディング>が広がった気配を感じ、真琴はぽつりと呟くと、すすすとすり足で廊下に出
る。武道をやっているゆえの、足音を立てない足の運び方だ。
案の定、廊下にはどう見ても生徒や教師には見えない工作員達が立っている。
「…一人か。人質には丁度いいだろう、全員確保しろ」
恐らくエッグ・マスターこと堂島の部下達だろう。薬を確実に手に入れるために保険を用意しにきた、と言ったところ
か。
「………なめんなよ」
ぽそ、と相手に聞こえない程度の声で真琴は呟く。す、とポケットの中から文庫本を取り出す。
「残念だったな、お前達の負けだ」
にやにやと嫌な笑いを浮かべながら、FH工作員が近づいてきて―――
「ダウト」
ばいん!!
「ほんぎゃ!!」
真琴が声と共に文庫本を開くと、そのページの間から思い切りばね仕掛けのパンチンググローブが飛び出して、工作員
の顎に一発を叩き込んだ。工作員は空を舞い、どしゃあと床に帰還する。ばねはしゅるんと元通りになり、真琴も何事
も無かったように文庫本を閉じる。その余りにもシュールな光景に、プロであるはずの工作員達も呆然とせざるを得な
い。
「き、貴様逆らうか!!」
「人質は患者だけで構わん! こいつを殺せ!」
僅かに声を上擦らせながらもざざっと武器を構え、エフェクト発動の体勢を取る敵に対し、真琴はあくまで優雅に。
「……………はっ」
眼鏡を逆光で光らせて。彼らを思いっきり、鼻で笑った。
ビキビキと額に青筋を浮かべる男達を眺めている真琴は、やはり本を持ったまま淡々と語る。
「雑魚が来るんじゃ相手にならない。今逃げるなら、その蹴りたい背中に石ぶつけるだけで勘弁してやる」
「舐めやがって…!」
「このガキィ!!」
挑発としか聞こえない真琴の言葉に、ざっと男達は前に出て。
「つぶれろ」
ぼそっと言われた結論と共に。
ずんどぐしゃ。
真琴の手の中から生え、唐突に巨大化した日本刀―――どう贔屓目に見ても斬馬刀にしか見えない―――に、全員ぺし
ゃっと潰されたのだった。刀を元の文庫本に戻し、真琴は何事も無かったようにふうと息を吐き。
「…成敗」
びっ、と親指で喉を掻っ切ってから、更に廊下の外、裏門の見える窓に近づく。
「来た来た」
普段動かぬ顔が、珍しく口元を綻ばせる。
バイクの排気音が遠くから近づいてきていた。
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