Master01 剣の宴





廃工場にぶちまけられた血は殆ど乾いていたけれど、その臭いは取れそうに無かった。
地獄絵図と言える場所に、銀色の髪の美しい少年が立っている。
その顔も、浮かべている表情も、嘗てと変わらぬ笑顔。
ただ、服だけが違う。
丈のきっちりと合った、古めかしい礼服。まるで血で編み上げられたような、深い赤の服。
その前に、同じ色の髪をした娘が、同じ色の服を纏って蹲っている。
彼女の右半身は、顔から肩、腕、足に至るまで、焼け爛れたような、腐り落ちたような、痛々しい傷を晒しているのが解る。
服のデザインが、まるでそれを強調するかのごとく、その部分だけを剥き出しにしているからだ。
悪意の篭る服からの血の臭いに咽び、娘の意識は混濁している。
少年は、そんな姉の姿を見て―――やはり笑っている。血に惑うことは無いのか、―――或いは、既に狂気に堕ちてしまっているのか。


「姉さん。本気なの?」

俯いた頭にかけられた声に、びくりと娘の肩が震えた。

「姉さんを好きになってくれる奴なんて、いるわけないよ。僕らは剣。人を殺すための道具。人間のふりだなんて、何が楽しいの?」

少年が、ゆっくりと近づく。顔を隠そうと俯いた娘を、少年は髪を掴んで捻りあげる事で許さない。

「こんな醜い姉さんを愛せるのは僕だけだ。そうでしょう? …せっかく姉さんのためにドレスも用意したのに。よく似合ってるよ?」


少年は笑う。
少年は哂う。
愚かで醜い姉が、この世で一番愛しいと、その瞳が言っている。



「…いや………もういや………。………殺すのはいやぁ…」



虚ろに呟かれた言葉は、弟に届く事は無い。


「僕は柔らかな死を。姉さんは断ち切る死を。ずぅっとそうやって生きてきたじゃない。……ね? 姉さん」





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