Master02 兄弟喧嘩開始
見た目だけは豪奢な応接室に、上品に座った女性と足をテーブルの上に投げ出している青年。
そんなアンバランスであるけれど、顔立ちは良く似た二人の前に、銀髪の男がやってきた。
男は冷たい表情を欠片も崩さず、恭しく礼を取る―――女性の方だけに向けて。
「お待たせ致しました、姉上」
「こっちもだいぶ待ったんですけどー、お兄様?」
だらしなく座った青年―――くゆの揶揄にしては剣呑な感情が混ざった声を受け、
漸く銀糸の男―――リファルサ・ルング、またの名をサミュエル=アーヴァレストはそちらに視線を向けた。
「貴様は来賓ではない。私の邪魔をした償いをして貰おうか」
「なァんのことですかー? ボクわっかんないなぁ」
「私が作り上げた『真実』を壊しただろう。鳥以下か、貴様の頭は」
「裏側でごちゃごちゃやってる割には、成果上がってないですよねぇえ?」
「問題ない。既にアズラフィルは手元に戻した」
「―――なんだって?」
ぎすぎすとした舌戦が、不意に途切れた。くゆの声から余裕が無くなり、訝しげに低くなる。
「年長者に対する礼儀を忘れるな」
「知るか。ちょっと待てよ、マジで―――斎がこっちに戻ってきたのか?」
「少々手間はかかったがな」
「…あいつが自分の意志で戻ってきたわけじゃないよな?」
「――何が言いたい」
しかし一度萎んだ笑みは、再びくゆの顔で綻んだ。
下僕を呼び戻す為に、わざわざこの男が人間界まで出向いたのだと、その事実を見透かしたからだ。
そう認識した瞬間、くゆの笑いが爆発した。
「くっ、あはははははは! ばっかでー! そんだけ執着しといて、思いっきり振られてやんの!」
「執着だと?」
かつり。
サミュエルの踵が床を叩く。
くゆが笑い転げるソファの背に、ゆっくりと近づく。
「めちゃくちゃしてんだろ。だってお前の今の、人間の名前―――逆読みすれば、azrafilだろ? うーわ乙女! キモイキモイ!」
かつり。
足が止まる。
笑いも止まる。
紅い瞳と、紫色の瞳が交錯する。
「口を慎め。色餓鬼」
「うるっせんだよ、墓場の蛆虫」
―――――ドガァッ!!
次の瞬間、サミュエルの闇を纏った腕と、くゆの手の甲から生えた紅い爪がぶつかる。そのまま本気の殺し合いに発展する弟達を見て、
「あらあら」
紅茶を優雅に傾けながら、リリムはくすくすと笑っていた。
⇒Middle01