Ending 転がった釦
壊された窓の向こうに、泳ぎ去る大蛇が見える。
サミュエルはただその場に立ち、それを目で追うに留めた。
「逃げられちゃったわねぇ」
くすくすという、笑い声。サミュエルは顔色一つ変えず、後ろから聞こえてきたその声に応える。
「姉上。貴女でしょう、あの獣を連れてきたのは」
「えー、違うわよぉ。あの子はクユの事が心配で、こっそり逃げてきちゃっただけよぅ」
きゃ☆と小さく握った両手を頬に添え、リリムはおどけて見せる。外見に似合わぬそんな少女のような仕草も、何故か堂に入ってしまうのが不思議だ。
「私はただ、お父様に『ずっと狭いところにいて可哀想だから、ちょっとだけ出してあげて?』ってお願いしただけよぉ?」
悪びれずに言い切る姉に対し、サミュエルはもう言葉を交わす価値が無いと判断したのか、何も言わずに外を見ている。
睨んでいるわけではない、ただじっと、逃亡者達が消えていった湖の果てを見ている。
「……………執着、か」
それだけぽつりと呟いて、サミュエルは踵を返した。もう振り向く事はない。
彼にとって斎は、お気に入りの服についていた釦のようなものだ。
必要であるし、探してもいた。
見つかったから、手を伸ばした。残念ながら、机の下に転がってしまったが。
ある場所が解っているのなら無理に取る必要は無い。
掃除の時にでも取り出せばいい。彼は本気で、そう思考していた。
そんな弟をリリムは見送り―――しょうがない子、と言わんばかりに苦笑して肩を竦め。
影の中に溶け込むように、その姿を消した。
―――sunrise.