Master01 ジェラシーストーム
クリスマスの夜といっても、流石にこの辺りにはもう人気がない。
静かな公園を、くゆが歩いていく。その足取りは軽やかで、迷いはない。
やがて、中心部の広場で、足を止めた。
目の前に、雷を纏う槍を左手に、ばさばさともがく梟を右手に掴んだ大天使がいる故に。
「おお、メリア様、不覚でございました! ワタクシの事は気にせず、この天使を滅して下されー!!」
梟―――くゆにとっての魔界の目付役・遠見の一族モーティシュラウトは、その身を拘束されつつも気丈に叫ぶ。
「戯け。人質を取るなどという小賢しい真似はせぬ!! 貴様をおびき寄せる為の餌になって貰っただけだ!」
大天使ラミエルは躊躇い無く右手を振り、言葉の通り梟を解放した。…それは充分小賢しい手段だと思う方がおられるか
もしれないが、残念ながらこのシーンにツッコミはいない。少なくとも彼は心底本気で言っている。
軽く肩を竦め、くゆはやはり何の気負いも無く言葉を紡いだ。
「何の用? 俺これから忙しいんだけど」
「何が忙しいというのだ! 堕落を司る魔王の仔が!」
「そりゃあ、エルと一緒に朝まで仲良くするんですけどー?」
「なっ、何イイイィィイッ!!?」
夜の静寂に、驚愕の雄叫びが響く。瞬間、彼の頭の中にはありとあらゆるめくるめくふしだらな映像が流れたのだが、必
死にそれを意識の隅に追いやって改めて叫ぶ。
「いや、言うまい! お前さえ滅せれば、サキエルも正気に返ろう!」
「…はぁー。ま、天使(お前ら)に何言っても無駄なのは解ってンだけどさ。―――邪魔された分のストレスは、解消さ
せて貰うよ!」
くゆの表情から笑顔が無くなった。と同時に、びきびきっ、と音がする。くゆの女と見まごう程色の白く細い手の甲に、
不似合いなほど巨大な血色の鉤爪が生えて出た。
「抜かせ、滅びるがいいわ、悪魔が!!」
主の激昂に応えるように、槍から雷が迸る。
ガキィン!! と火花が夜の闇に散った。
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